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「地域仮想通貨」地方で脚光 イオン系が支援サービス

企業や自治体がIT(情報技術)を使った地域限定の仮想通貨を相次ぎ発行している。イオン子会社は今春以降、自治体向けに独自通貨の発行・運用を支援する新サービスを始める。商品券などの形で発行されていた地域通貨とITを組み合わせた「地域仮想通貨」は、詳細なデータ分析やコスト削減が可能。地域経済活性化の新たなツールとして注目が集まる。

イオン傘下のフェリカポケットマーケティング(FPM、東京・港)は、5月以降に新サービス「自治体ペイ」を始める。各自治体が独自の地域仮想通貨を発行し、域内の小売店や飲食店で展開するための仕組みを提供する。通貨は電子マネーやポイントなど様々な形式で発行できる。

導入店向けの決済端末は、中国の決済事業者などと連携して無償で配布。消費者が地域仮想通貨を利用することで収集できる購買データなどを分析し、集客のための販促策などに活用する。FPMは3年間で15件程度の契約を目指す。納村哲二社長は「地域の金を域内で循環させることで、地域経済の活性化をサポートしたい」と語る。

地域仮想通貨は、多くが仮想通貨の基盤となるブロックチェーン(分散型台帳)技術を活用。複数のコンピューターで情報を共有、相互監視しながら正しい記録を蓄積する。データ管理の安全性の高さに加えて、システム関連コストも一般的な電子マネーなどより低く抑えられる特徴がある。

従来の商品券などと異なり、消費者の属性や購買履歴、利用の傾向など細かなデータを収集・分析することも可能だ。さらにスマートフォン決済などキャッシュレス決済の普及により、手軽に仮想通貨を利用しやすい環境が整いつつある。

 

千葉県木更津市と君津信用組合(同市)はシステム開発のアイリッジと組み、18年10月に「アクアコイン」を発行した。現在同市内の約400店で利用でき、ポイント還元策などのキャンペーンも展開する。同市産業振興課の担当者は「アクアコインで売り上げが伸びた店もあり、さらに知名度を高めたい」と語る。

 

大手企業でも、近鉄グループホールディングス三菱総合研究所と組み仮想通貨を導入。17年から近鉄百貨店あべのハルカス近鉄本店などで継続的に実証実験を進めている。ディー・エヌ・エー傘下でプロ野球の横浜DeNAベイスターズも、昨年から横浜スタジアム周辺で利用できる仮想通貨の開発に取り組む

日本では1990年代後半から多くの自治体や商工会議所が商品券やクーポン券などの形式で地域通貨を発行した。800種類以上ともいわれるが、実際に定着させるためのハードルは高い。

専修大学経済学部の泉留維教授らの研究では、17年末時点で流通しているのは186種類。発行後5年以上継続する割合は4割弱とのデータもある。失敗の要因はコスト増や利用者・導入店の伸び悩みで、「流通を安定させる仕組みと一定の規模がなければ長期的な運用は難しい」(泉教授)。

地域仮想通貨の課題もやはり安定流通だ。三菱総研の奥村拓史・主席研究員は「地域特性に合わせた価値の提供や、データの有効な利活用が不可欠になる」と指摘する。

ビットコインに代表される仮想通貨は投機資金の流入で市場が急拡大したが、足元では相場の下落が続く。実際の消費に直結する地域仮想通貨は地方経済の活性化への期待が高いが、普及に向けて具体的な成功事例の積み重ねが必要になる。